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【連続ブログ第1回】

2020.07.02

第一回 こんな時だから・・・

コロナウィルス拡大を受けて、この間、京都大学医学部/医学研究科も緊急事態宣言を受けて学生の講義は全て遠隔授業でした。研究室はこれまで完全にシャットダウンされることはなく細々と研究活動を続けてはいましたが、それが今はほぼ旧に復しつつあります。

私も 2 月末以降、既に 4 カ月以上出張もなく、会議はほぼ全て ZOOM を用いた遠隔会議。自宅から大学まで片道 10 分の自転車通勤なので、以前に比べて人との接触はそれこそ 9 割減と言っても良いかと思います。

この間、時々刻々状況が変わるので、30 名ほどの研究室メンバーそれぞれにどう対応するかを調整することで気分は落ち着かない日々でしたが、2 月末以前のへとへとになって飛び回っていた頃に比べて、少し落ち着いて物事を考える時間ができました。溜まっていた論文を書き上げたり、なかなか読めていなかった本や論文を読んだりして、自分と自分の研究を見つめ直したりもしています。

以前、生理学研究所にいた頃は時折 HP で研究室の運営に関する考えを時々書いていて、それを読んだ皆さんからご意見を戴いたりしていました。その頃とは時代も環境も変わり、私も今年で 60 歳を迎えるようになりました。現在の「こんな状況」がいつまで続くかわかりませんが、この後何回かにわたり、思うところを書いてみたいと思います。

 

以前に JST のポータルサイトにオピニオンとして、「どのような PI を育てるべきか?」(2008年7月2日掲載;https://scienceportal.jst.go.jp/columns/opinion/20080702_01.html)という記事を書かせていただきました。これを読んだ人たちに今の中堅の PI になっている方が多く、今でも時折、当時と考えは変わらないか?などと聞かれることがあります。もう今から 10 年以上前ですが、その頃色々な人事や研究費の審査などに関わるようになり感じたことを書いたものです。

当時、30 代のエリート候補とされる研究者の論文リストを見ていると、大きなラボに長年いて、それでトップジャーナルやそれに次ぐジャーナルに筆頭著者論文が1-2本あるが他はほとんどなし、という人が結構いることを目の当たりにし、その人本人の実力を測りかね(どこまでが本人の力によるのかラボの力に寄るのか?)、自分たちが若い時に育ってきた環境と大きく異なってきていると感じました。同じラボにずっといるのではなく、環境が変わってもそれなりに成果を出し続けられる(トップジャーナルでなくとも)逞しさを持った人を評価すべきである、というのが論点でした。

それから 10 年以上が経過し、状況はさらに変化しています。この間に起きた大きな変化は、ひとつには科学雑誌の出版環境です。Nature Publisher や Cell Press などが多種多様な姉妹誌を発行し、impact factor による journal の序列化が一層鮮明になりました。皆 high profile journal を目指すので論文発表までに時間がかかります。一方で bioRxiv などの accept 前の論文を掲載するサイトが発表論文と同様に扱われたり、一方で Frontiers や Plos などのように明らかに異なる掲載方針を持つ online journal も出てきています。しかし、大型の研究費を獲得したり、major な学会での特別講演者を選ぶ場合には、high impact journal への論文はやはり重要な要因として扱われる傾向は一層強くなってきているように思います。何故なら、科学の分野が多様化し、自分の専門としない分野の研究者の評価が一層難しくなり、結局そのような指標に皆が頼らざるを得ないからです。

ただ、私のこの 10 年余りの経験をもとにもし付け加えられることがあるとすると、やはり「その人が、属する分野の他の研究者とどれだけ違うのか?」という尺度がとても重要だということです。確かに今流行っていて busy な分野は進展も早いし、そこでは色々な innovation が生まれています。しかし、そのような分野の二番手、三番手で良いのか?(勿論二番手、三番手に付けられるだけでも凄いのかもしれませんが)それとも人があまりやっていないけれど、重要な分野で腰を落ち着けて少し変わったことをやっている人が良いのか?ただ、その場合は理解者が少ないので、発表される論文は必ずしも high impact journal には届かないことも多くなります。私は後者の人をなるべく評価したいと考えていますが、そのような研究をやり通すには一方で、本人にも自分の研究の重要さを上手にアピールしていく能力は必要でしょう。特に欧米から離れた日本でそれをやっていくためには、欧米の主要な研究者に理解してサポートしてくれる人も必要かもしれません。私自身は、これまで、「サルで脊髄損傷後の回復過程での“脳”の変化を見る」「機能回復への貢献について因果関係を示す」「ウィルスベクターをサルに使う」ということで、自分のユニークさを出し、外国でも「ちょっと違う人」と思ってくれる人も増えてきました。そのあたりの経験について次回以降少しずつ述べて行こうと思います。参考にしていただける方が少しでもいれば幸いです。(伊佐)

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