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盲視に関わる視床中継核についての長年の論争を決着させる論文が J Neuroscience 誌にアクセプト!

2020.12.11

一次視覚野が損傷を受けた後、視覚的意識が失われるにもかかわらず視覚刺激に対して行動することが可能である「盲視」という不思議な現象は、長年多くの人の興味を引いてきましたが、その中枢機構には未解明の部分が多く残されていました。特に、1973年に最初の盲視の報告があった当初は、上丘から視床枕を介して高次視覚野に投射する経路が一次視覚野の機能を代行すると考えられていましたが、その後、外側膝状体から一次視覚野をバイパスして高次視覚野に投射する経路が重要であるという主張もなされて、意見が分かれていました。そこで問題だったことは、サルを用いた実証的な研究において、視床枕、外側膝状体のいずれを主張する研究者も同一個体で両者を比べたわけではなく、また損傷の作り方(大きさ)、また視覚ー運動機能の調べ方も異なっており、直接の比較が困難でした。

そこで今回、高桑徳宏 元特定助教(現ドイツ・マックスプランク研究所研究員)らは、片側の一次視覚野のほぼ全域を吸引除去したサルにおいて視覚誘導性の眼球のサッケード運動が、視床枕ないしは外側膝状体のいずれかをムシモルの注入によって機能阻害した際に、どのように影響を受けるかを比較しました。すると、健常側に向かうサッケードについては、外側膝状体の機能阻害によって遂行不能になりますが視床枕の阻害は効果がないことがわかりました。それに対して、損傷側視野においては、外側膝状体と視床枕いずれの機能阻害もサッケード運動を障害することがわかりました。一方で、組織学的に抗 NeuN 抗体を用いて外側膝状体において一次視覚野の損傷による逆行性変性がどの程度進んでいるかを検討したところ、magnocellular, parvocellular, koniocellular いずれの層も少数の細胞が残存していることがわかりました。以上の結果、一次視覚野の損傷後、多数の外側膝状体の細胞は逆行性変性によって失われますが、残った細胞が高次視覚野への直接投射を介して残存視覚に貢献するとともに、上丘ー視床枕ー高次視覚野という経路が可塑的に増強されて視覚運動変換に重要な役割を果たすようになることがわかりました。これにより、盲視に関与する視床核に関する長年の論争にほぼ決着がついたと考えています。

Takakuwa N, Isa K, Onoe H, Takahashi J, Isa T (2020) Contribution of pulvinar and lateral geniculate nucleus to the control of visually guided saccades in blindsight monkeys. Journal of Neuroscience, in press.

(図)健常時(上)は主として網膜ー外側膝状体ー一次視覚野ー高次視覚野という経路が使われるが、一次視覚野損傷後(下)、外側膝状体も大半が逆行性変性するので、網膜ー上丘ー視床枕ー高次視覚野という経路が視覚運動変換により重要な役割を果たすようになる。

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