盲視における後頭頂連合野の機能を明らかにした論文が Communications Biology 誌にアクセプト!
一次視覚野の損傷後、障害された視野が「盲」となり、視覚的意識が喪失しているにもかかわらず、その視野に提示された対象に対して手を伸ばす、目を向けるなどの行動を起こす能力が保持されているという盲視 (blindsight) という不思議な現象が知られています。このような盲視に関わる脳領域を明らかにするため、今回、加藤利佳子研究員、池田琢朗研究員(現在神戸理研)らは、片側の一次視覚野を吸引除去したサルにおいて、盲視野に提示された標的に対する視覚誘導性の眼球サッケード運動の制御に関わる脳領域を陽電子断層撮影法 (PET) を用いて調べたところ、両側の頭頂間溝 (IPS) の外側壁 (lbIPS) の関与が示唆されました。そこでこれらの領域から単一細胞活動を記録したところ、一次視覚野を損傷した側においても、健常側と同程度に強いサッケードの標的の提示に対する視覚応答が検出されました。そして損傷側、健常側の lbIPS に GABA 受容体のアゴニストであるムシモルを注入して一過性に機能を阻害したところ、いずれの場合も、障害視野へのサッケードが障害されました。これまで健常なサルにおいて lbIPS 領域(いわゆる LIP とほぼ同等)の機能阻害は、今回調べたような単純な視覚誘導性サッケードには影響なく、より高次な機能に関わっていることが知られています。このことから、一次視覚野の損傷後に機能回復が起きて盲視の能力を獲得する過程において lbIPS などの後頭頂葉領域の機能が変化し、より単純な視覚運動変換にも関わるようになったと考えられます。この成果は、盲視に関わる皮質レベルの可塑性を明らかにし、盲視のメカニズムに関して新しい視点を提示したものと言えます。これらの成果は、本年3月4日に Communications Biology 誌に掲載されました。
Kato R, Hayashi T, Onoe K, Yoshida M, Tsukada H, Onoe H, Isa T, Ikeda T (2021) The posterior parietal cortex contributes to visuomotor processing for saccades in blindsight macaques. Communications Biology, 4:278| https://doi.org/10.1038/s42003-021-01804-z
(図1)各セッション中のサッケードの回数を1:2:3:4:6と系統的に変化させ、そのサッケードの回数に比例して血流が増加する脳部位を検出した。一次視覚野の損傷前後で両側のIPS領域の活動のサッケードに対する関係が強まったことが示されている。
(図2)損傷側(a)及び健常側(b)のlbIPSニューロンの視覚誘導性サッケード課題遂行中における活動。注視点と標的が300msないしは500ms重複するoverlap saccade課題。左は標的提示時点にそろえた活動の平均、右はサッケード開始時点にそろえた活動の平均。赤は受容野内、青は受容野外に標的が提示された際の活動。損傷側においても健常側と同等な強さの視覚応答が誘発されていることがわかる。
(図3)損傷側(a,b)及び健常側(c,d)のlbIPSに対するムシモル注入が視覚誘導性サッケードに与える効果。a,cはサッケードの終点の分布。b,dは成功率の変化。いずれの場合も障害視野(affected)に対するサッケードが障害された(健常視野(intact)へのサッケードは障害されなかった)。